賃貸の退去費用のルール|国交省ガイドラインでは通常損耗は貸主負担

退去の立ち会いで「壁紙の張り替えで6万円ですね」と言われたら、あなたは反論できますか。知識がないと「そういうものか」とサインしてしまう——退去費用のトラブルが減らないのは、借主側がルールを知らないことを前提にした請求が通ってしまうからです。

実は、何を貸主が負担し、何を借主が負担するかには、国土交通省が示した明確な基準があります。この記事では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方と、入居時から退去までにやるべきことを解説します。

大原則:「原状回復」は入居時の状態に戻すことではない

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、原状回復を「借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています(出典:国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン)。

つまり、普通に住んでいて自然に生じる劣化(通常損耗・経年変化)を元に戻す費用は、毎月の家賃にすでに含まれている、というのが国の示す考え方です。「新品同様に戻す費用を借主が払う」ものではありません。

ポイント:ガイドライン自体に法的強制力はありませんが、裁判や交渉で広く参照される事実上の標準です。さらに2020年施行の改正民法で、通常損耗・経年変化が原状回復義務に含まれないこと(民法621条)が明文化されました。

負担の分かれ目:具体例で見る貸主負担と借主負担

分かれ目は「普通に生活していて起きるものか、不注意や放置で起きたものか」です。ガイドラインの区分をもとにした代表例です。

事例負担理由
日照による壁紙・床の変色貸主経年変化
家具の設置による床のへこみ貸主通常の使用
画鋲・ピンの穴(下地ボードに達しない)貸主通常の使用の範囲
冷蔵庫・テレビ裏の壁の電気ヤケ貸主通常の使用
タバコのヤニ・臭い借主通常の使用を超える
飲み物をこぼして放置したカビ・シミ借主手入れ怠慢(善管注意義務違反)
釘穴・ネジ穴(下地ボードの張り替えが必要)借主通常の使用を超える
ペットが付けた柱の傷・臭い借主通常の使用を超える

さらに、借主負担の場合でも経過年数が考慮されます。たとえば壁紙は6年で残存価値がほぼ1円になる扱いのため、6年住んだ部屋の壁紙を汚したとしても、新品価格の全額を請求されるのはガイドラインの考え方に合いません。

敷金は「返ってくるのが原則」——民法に明文化されている

2020年施行の改正民法第622条の2で、敷金は「賃貸借が終了し、賃貸物の返還を受けたときに、未払賃料などを控除した残額を返還しなければならない」と明文化されました。敷金は預け金であり、返還が原則です。

注意すべきは契約書の特約です。「退去時クリーニング費用は借主負担」などの特約は、内容が具体的で金額が暴利でなければ有効とされる場合があります。契約前に特約欄を必ず読み、金額の記載がないクリーニング特約には確認を入れましょう。

入居時にやるべき2つのこと

  1. 入居直後に部屋中を写真・動画で記録する:既存の傷・汚れを日付つきで撮影し、管理会社所定のチェックシートがあれば全て記入して提出します。退去時の「これは元からあった」を証明できる唯一の材料です
  2. 契約書の特約と「原状回復の条件」を読む:賃貸借契約書と重要事項説明書のうち、退去・敷金・特約のページだけでも熟読してください。契約時に必要になる源泉徴収票などの書類については源泉徴収票の見方も参考に

退去時の立ち回りと相談窓口

よくある質問

Q. 壁紙の日焼けの張り替え費用は払う必要がありますか?

A. 日照による変色は経年変化として貸主負担が原則です。借主負担になるのは故意・過失やタバコのヤニなど、通常の使用を超える損耗です。

Q. 敷金は返ってきますか?

A. 改正民法622条の2で返還が明文化されています。借主負担の修繕がなければ返還が原則です。

Q. 高額請求されたらどうすれば?

A. サインせず内訳書面を求め、188(消費者ホットライン)や無料法律相談に相談してください。

まとめ

退去費用の交渉力は、知識と記録の2つで決まります。「通常損耗は貸主負担」「敷金は返還が原則」「経過年数で借主負担は減る」——この3つを知り、入居時に写真を撮っておくだけで、不当な請求のほとんどは防げます。

※本記事は一般的な制度・基準の解説です。個別のトラブルは消費生活センターや弁護士等の専門家にご相談ください。